ニッポンたのしい。

楽しそうなことを求めて日々右往左往するさまを無様に綴ります。

ゲストハウスruco、萩のオアシス② ~アコースティックライブの夜~

山口は、萩に来ています。

 

 (前回のお話:ゲストハウスruco、萩のオアシス① ~萩市観光はホテル・旅館ではなくゲストハウス~

 

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真っ暗な山間を鈍行列車を乗り継ぎ乗り継ぎ、やっとのことで辿り着いたのはrucoというゲストハウス
ゲストハウスは明るい光であふれ、一階のフリースペースではアコースティックライブが行われていました。チェックインを済ませ、設備の説明を聞いた私と天木は、自分の寝床のベッドメイクをし、荷物を片し、一息ついたところでした。1階では投げ銭ライブが行われており、爪弾くギターの音色と歌声が聞こえます。柔らかな音に包まれ、4階建ての鉛筆みたいに細長いお宿全体がまるで淡く色づいたようでした。

 

「いい歌だな」

「そッスね」

「聞いていくか?」

「でも、おれ、腹減っちゃったっス」

「さっきお腹なってたもんな。盛大に」
「そうなんス。おれ、すげーハラ鳴るんすよ」

「間奏部分とかで鳴ったら聞こえるレベルだな」

「そッス。それに、オレ腹減ると集中できないんで、さきなんか食べませんか? ここってメシあるんスかね?」

「ゲストハウスだから、基本ないだろ」

「っスよね。じゃあちょっとコンビニあるかググります、、、ありました。遠いっすね。でも」

 

といって甘木が黙ると、


ーーグルルルッギュッギュー。


と何らかの未知の生命体の断末魔のような音が甘木のハラから発せられました。あまりの生々しく異質な音色に、包み込んでくれていた歌をも忘れ我に返りました。

 

「よし、食べ行くかパンとかでいいよな」

「じゅうぶんっス」

 

観客のお邪魔をしないよにそっと1階部分を抜け、また夜道をコンビニがあるらしき方向へ歩き出しました。しかし、今は手ぶらで、ぼんやりと残る暖かなお宿の光と歌の余韻で、引き締まった夜風が心地よくもありました。

 

「甘木よ」

「はい」

「いまんとこ、来てよかった感じだな」

「そっスね。電車ん中で絶望してたときはどうなることかと思いましたよ」

「電車の中で絶望しがち。青春18あるあるだ」

「なるほど。勉強になります。やっぱうそっす。ならないっす」

「そうだな。ならないな」

 

叩き合う軽口も軽快に、夜風に乗ってどこかへ飛んでいきました。
しばらく歩くとコンビニの明かりが見え、パンとおにぎりを買って、それを歩きながらパクパクと食べてお腹が満ちてお宿に着いた時にはもうライブは終了していました。

 

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「終わっちゃってますね」

「あらら、ついさっきまでやってたのに。たったいままで」

 

と、歌っていたシンガーお兄さんがギターを片手に言いました。

 

「いえいえ、僕らの到着が遅かったんで仕方ないっス。上でシーツ張りながら聞いてましたけど、いい声っすね」

「当然すぎることを言うものじゃないぞ、甘木。もうそんなことは万度言われていらっしゃるはずである」

「あはは、そんなそんな、ありがとう」

 

そんなことを話していると出前が届きました。お兄さんの夕食のようでした。一緒に、随分と美人な奥さんもいらっしゃいました。お話を伺うと、お兄さんは北海道を中心に活動されているシンガーソングライターで、北海道から沖縄までを行く先々でライブを開きながら旅をされているそうなのです。そんなお話をうかがっていると、

 

「こんばんは、遅くなりました」

 

と新しいお客さんが4人ほどやってきました。

 

「いらっしゃい」

「あれ、何かライブやってたんですか?」

「ええ。さっき終わっちゃいましたけどね」

「あ、じゃあ、もう一曲だけ歌いましょうか? 彼らも聞いてないですし」

「いいんですか?」

「ええ。ねえ、マスター?」

 

とシンガーのお兄さんがバーカウンターの中に座っていたオーナーらしきお兄さんに目くばせをすると、マスターはにっこり笑いました。


「じゃあ、お言葉に甘えて」

「よーし、じゃあ行きますよ」

 

なんて、ご飯を食べて、ほんの少しだけお酒の入ったお兄さんはギターを首からかけて指でポロポロとギターを再び弾き始めました。

それは『それでいいんだよ』という曲だったかと思います。
4階から聞くのとはまた異なり、目の前で歌われる言葉は、とても直観的に共振を誘いました。甘木が、いつものトロンとしたタレ目を見開いて、真剣なまなざしで聞き入っています。この時間が、ずっと、いつまでも続けばいいと思えば思うほど時間が経ぎるはあっという間に感じます。曲が終わり、「ありがとうございました」という声と共に拍手が起こります。

 

「センパイ!」

「うん」

「いい歌でしたね!」

「うん」

「『それでいい』ンスね」

「なにがだ」

「オレがっス。オレも、このままでいいんスよ。ありのままの自分の感じが大事なんす」

おまえは、そのままじゃよくなくはないか?

「なんでっスか?」

「ピュアな女の子とか純粋なキラキラした青年とかはそのままでいいんだよ。でも甘木はすでに穢れすぎている」

「どういうことっスか!?」

「たとえば、そうだな、趣味は?」

「合コンっす」

「楽しい?」

「楽しいっす!」

「なんで?」

「女の子と友達になれるからっす!」

「なんで友達になりたいの?」

「女の子はいい香りがして柔らかいからっス!」

「そのままでいいのか?」

「え? いいんじゃないんスか?」


(単に甘木の合コン開催回数が増えるだけではないか、、、なんか違う気がする、、、)


「じゃあ話を変えよう。ナツ姉さんは、あのままでいいとおもうか?」

「!? ダメでしょう!! あれは!」

「そうだな。人が酒に飲まれて嗚咽する姿を見るのが最大の楽しみである酒仙女が、あのままでいいわけないよな」

「っスね、、、そしたら、、、オレは、どうすれば、いいんでしょうか、、、」

「知らん」

「そんな」

「自分で考えろ」

「はい」

「どうだ」

「かんがえました」

「ふむ」

「昔を思い出さなきゃいけないっスね。いろいろ悪影響を受ける前の本当のオレや、
まだヨゴレていない本来の夏江姉さんを思い出さないといけないっす」

「なるほど。お前は、いつから女の子が好きなのだ」

「幼稚園年少さんのころから割と好きでしたね」

「そうなのか」

「そっスね。母親曰く、女の先生に結婚しようねって言いまくってたらしいっス」

「じゃあお前らは、生後間もなくまで戻らなくてはいけないね」

「でも、そこまでいったら、それはもうオレじゃなくないっすか?」

「では何歳からが甘木なのだ?」

「、、、オレって、なんなんスかね」

「おまえの存在は、今のおまえでしかない」

「じゃあ、ナツ姉さんも今の姉さんこそが本当の姉さんということになって、ナツ姉もあのままでいいってことスか?」

「うむ」

「あんまりだ!」

「そんなことはない。現状、一旦そのままでいいのだ。一度現状の自分を良し悪しを含めてすべて受け入れるのだ。文字通り、そのままでいいのだ。その上で、より良くなるにはそこから変化していくことになる」

「じゃあ結局、このままじゃだめなんすか?」

現状はもうどうすることもできないのだから、それでいいこと自体は間違いないことなのだ。ただ、このまま留まるのはダメだろう。むしろ、逆にとどまり続けることなんてできるのか? 新たに合コンも開くし、もうすぐ就職もするし、新しい彼女もほしいし、勉強だってちょっとはするし、年も取るだろう」

「はあ」

「その変化をより良くするために、一旦、良いも悪いも含めて現状を肯定するのだ。肯定し、より良い変化の為にありのままを一度そのまま受け入れるのだよ。現状を分からずして的確な変化は望めない」

「、、、結構ややこしい内容の歌だったんすね」

「私はそう解釈した」

「でもそれは、あれっすね、『八正道』ぽいっスね」

「なんだそれは?」

「自分や自分を取り巻くものを正しく理解するための八つの正しい道っす」

「、、、なんだ、それは?」

仏教っす」

「なんでそんなことを知っている?」

「母方のジイちゃんが坊主なんす」

「、、、お前の家系って、日本画家とか、坊主とか、そんなんばっかなのか?」

「あー、言われてみたら一族みんなアーティスト的なとこあるかもしんないっス」

(坊主は、アーティストなのか、、、?)

 


rucoでの夜は更けていきました。
我々の会話の内容が、こんな調子であまりに妙なので、誰からも絡まれることもなく。。。

 

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次回、ナイキのスニーカーの彼と意気投合した我々は、萩市内を縦横無尽に駆け巡る。そしてナイキの彼の本性は孤高のモノノフであった。

誰に求められるでもない物語は続く。。。

 

 

 

 〓〓〓 次回・モノノフボーイの憂鬱その1 〓〓〓

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〓〓〓  萩・広島旅行まとめ 〓〓〓

【まとめ】 楽しく萩・広島観光してきた ~西新宿にて後日談~ 

 

 

 

 

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