ニッポンたのしい。

楽しそうなことを求めて日々右往左往するさまを無様に綴ります。

梅雨なので、寄席で正楽さんに紙切りしてもらった。【後編】

今週のお題「梅雨の風景」

◆ ◆ 前回のあらすじ ◆ ◆

おっす! オラ悟空! べジータ魔人ブウを倒すにはまともに戦ってちゃ駄目だ! 魔人ブウ! お前を倒す方法がわかったぜ!

、、、なんていう熱い展開ではなく、梅雨で憂鬱なので新宿の寄席にいます。

 

 

憂鬱すぎてなんだかげっそりしてきた愛すべき後輩甘木と、

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浮いた話もなく新宿を界隈をひたすらうろうろしているだけのわたし

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が、梅雨で遠くにも出かけられないので、新宿界隈でことをすまそうと寄席に行って、人間国宝の落語でも見て溜飲を下げようと思っていたら、甘木が予想外に寄席の色物、「紙切り」の方に食いついたというお話。

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

末広亭とは、落語の常席であります。者が入れ替わり立ち代わり、面白い落語や、面白くない落語が次々と繰り出されていた。さきほどのものは、結構面白いお話でした。

 

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「センパイ」

「なんだ」

「いまの、なんて話っすか?」

「いまのは『タラチネ』だ」

「へー。この話、面白いっすね」

「あの人が上手いからな。話の内容ではなく、あの人だから良かったのだ。あの話、下手な人がするとひどいぞ。甘木はラッキーだ。あ、つぎ、正楽さんだぞ」

「えっ、あっ、そ、そうか、あ、おお、すげ、緊張してきました」

「わかる。最初はすごく緊張する」

「手汗が、止まんないっす、あ、動悸が、ふう、息切れが、ふう」

「まあ、落ち着け」

「はあ、ふう」

「で、甘木よ、何を切ってもらうつもりだ」

「シンプルに、『ももいろクローバーZ』っス」

 

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「、、、正楽師匠、モモクロ知ってんのか? 多分、『四葉のクローバー』かなんかかわりに切られて終わるような気がするぞ?」

「っスかね。ま、とりま、言ってみます。、、ふう」

「じゃあ、タイミングになったらおれが、膝をポンッて叩くから、声出せよ」

「ふう、はあ、はい、、、」

(度胸があるんだか、ないんだか、、、さすが甘木)

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

太鼓と三味線の音色が鳴り始め、甘木がちっとも落ち着かないうちに、手に鋏と紙を持った正楽さんが、舞台脇からフラッと現れた。

 

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「はい、どうもー。わたくしの方は、紙切りでございます。ではまず手始めに、ハサミ試しでございます、、、」

といって正楽さん、ササッと『四畳半』のお題を切り出した。

 

(これは以前に切ってもらった『四畳半』)

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こちらがA面 ↑

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切り離していないので、もう一方を ↑ B面と言うのだそう。

 

 

正楽さん「さあこちらを、あ、ではこちらのご婦人に、ハイハイ、どうぞ。取りに来てくださいね、はい、お持ち帰りください。・・・おうちに帰ったら、黒い紙か、緑の紙か、黄色の紙か、紫色の紙に貼り付けておいてくださいね~~? 白い紙にはりつけたら、両方白くてなんだかわからなくなります、、、さて、ご注文を―――」

 

ここからが修羅場でありました。

私まで、じんわり掌に汗がにじんでいました。甘木も、額からの汗が止まらなくなっています。ここで、タイミングよく切ってほしいお題を大きな声で正楽さんに伝えなくてはなりません。

他の人の声に負けないように。かぶらないように。心臓の鼓動を感じつつタイミングを見計らい、合図からのタイムラグも考慮して、『ご注文』の『ご』のあたりで私はポンと甘木の膝を叩き、(いけ!)と小さくささやきました!

すると甘木、

「あっ、あ、も、もぉもいろクロヴァアゼトぉ」

「蛇の目傘ぁ!」

気合の入った常連らしき人が声を張り上げ、甘木の声は露と消えた。しかし諦めてはいけませんお題は3つまで切ってくれるのです。

(甘木!甘木!まだいけるぞ!甘木っ!)私は固まっている甘木にささやきます!

「6月の小三治師匠!」

アジサイ!」

即座に別のお客二人が、声をあげ、うち一人がかき消された。

(おい! あまき! いまだ!)

「たっ、たらちねぇ!

甘木は声を張り上げた。

 

正楽さん「はいはい、えー、まずは『蛇の目傘』。蛇の目でお迎え嬉しいな、ですね。で、えー、『6月の小三治師匠』、ですか? 6月だろうと正月だろうと、年中一緒だと思いますけどねぇ、ヒッヒッヒ。で、なんでしたっけ、ああ、『たらちね』ですね。はい、じゃあ、まずはお母さんが蛇の目でお迎え嬉しいなっと、、、」

というと太鼓と三味線が鳴り出し、正楽さんは身体を大きく揺らしながら紙を切り始めました。

 

 

 

 

場内で写真は取れないので、(座席等の写真は基本的に公式HP等のもの)どんな作品に仕上がったのかをご覧いただくことはでないのが残念です。一つ目は、紫陽花が咲く小道を傘をさして歩くお母さんと子どもの構図。2枚目は、扇子を持ち、和服の女性に傘を差し掛けてもらいながら、寄席を見上げる坊主頭の和服の男性の構図でした。そしてついにドキドキの3枚目となったときの。

 

正楽さん「えー、たらちね、ということですが、たらちねはね、その、さきほどの演目ですが、新婚夫婦の奥様の言葉が京都の古語で難しすぎて理解ができなくて困ってしまって、朝のお味噌汁の具を決めるだけでも一苦労、というお話ですが、、、これ、、、わたし、これ、何切ればいいの?

といって上を向き、それを見てお客さんも笑っています。確かに、特に盛り上がりどころのある話でもなく、何を切っていいのかわかりません。

(やっちまったな)

私は小声で甘木にいいました。

(なんで、『たらちね』にしたんだ?)

(テンパッて、何も出てこなくなって、モモクロも言うのが怖くなって、咄嗟に出てきたのが、さっき話してた、一つ前の出番の人のネタの名前『たらちね』でした)

(はー、なるほど)

さて、どんなのが出来上がるのかなと思いみていると、なんやかんやいいながら正楽さんハサミをチョキチョキと切りすすめ、こんなの仕上げてくださいました!

 

 

 

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正楽さん「ハイ、こちら、た・ら・ち・ね。お味噌汁の具は何にするか尋ねる奥さんと、ナニ言ってるか全然わかんなくて困る旦那さん」

 

拍手が起こった。困っていた様子を見せつつ、紙切りの出来はよかった。一度笑いが起こった場内も、完成した紙切りを見て、ああ、なるほど! といった雰囲気となった。甘木は意気揚々と前に出向き、「はい、どうぞ」なんて言われて正楽さんから手渡しで紙切りを渡された。正楽さんの腕にすべてが救われた感じがした。もっとも、あのぐらいのベテランになれば造作もないことなのかもしれないが、テンパった甘木を侮ってはいけない。正楽さん、さすがです!

 

 

( 林家正楽 【紙切り】 - YouTube

↑ 紙切りにチャレンジされる方への参考動画 ↑ )

 

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演芸のトリは人間国宝小三治さんでしたが、演目は、まさかの大ネタ『死神』の大熱演でした。縁起という観点だけを考えて、貧乏神じみた甘木にとって演目が最終的に縁起が良かったのか悪かったのかは謎です。が、手元にこの紙切りがあればなんとなく幸せな心持ちです。

相変わらず雨はやみませんが、演芸場を出て、手元に残った紙切りをみるにつけ、なんとなく幸せな心持ちがする雨の降る6月のある日の晩でありました。

あと、内容とは直接関係ありませんが、甘木情報によると、モモクロは一度寄席にサプライズ出演して講座で踊って歌ったことがあるそうです。世の中、何があるのかわかりません。

 

みなさんも、梅雨で憂鬱な6月は新宿の寄席にGO!

いまなら紙切りも、人間国宝もまとめて体験できちゃう★ZE☆彡