ニッポンたのしい。

楽しそうなことを求めて日々右往左往するさまを無様に綴ります。

ウミガメの握りと味噌煮込み ~食い道楽帖その10~

ウミガメを食べたことがある。

アオウミガメだった。

 

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 小笠原諸島の父島の寿司屋で食べた握りだったが、美味かった。事の成り行きで同席していたお姉さんは気持ち悪いからと食べなかった。

 上に臭み消し用の生姜が乗っていたが、別になくても臭いとは思わなかった。味としては馬刺しにも似た生々しい味わいがした。小笠原の名物だといわれれば当然食べることになる。

 

 その昔、食糧事情が極端に悪かった小笠原諸島においては貴重なタンパク源として、ウミガメ漁が当時の林野庁によって推奨されたのだそうだ。ウミガメ漁は、海の上にプカプカと浮かぶウミガメを銛で甲羅ごと突き刺し、銛についたロープを手繰って船に回収するそうだ。亀の甲羅は意外に柔らかいらしく、銛は簡単に突き刺さるそうだ。

 亀は両生類なので、定期的に呼吸をしに海面に顔を出す。そこを狙うということだった。一度逃げられてもその辺りで待っていればそのうちプカリと浮かんでくるのだそうだ。確かに、永遠に海中を泳ぎ続ける魚を採るよりはかえって効率がよいのかもしれない。

 

 ウミガメの生命力はスゴイと聞く。銛を突き刺して船に乗せてからは一日数回海水をバシャバシャとかけておけば、一週間ぐらいは生きているそうだった。それを食べるとこちらまで長生きできそうな気がしないでもない。

  味に関してはアオウミガメが美味いそうだ。アオは草食性なので肉に臭みがなく、逆にアカは肉食なので臭くて食べにくいとのことだった。

 

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 後日、島の居酒屋で亀の味噌煮を食べたのだがこちらは非常に臭かった。もしかするとこれはアカウミガメだったのかもしれないと今となっては思うが、単に古いだけだろうか。なお、小笠原島周辺では、適切な狩猟制限の効果もあってウミガメの数は増えている。

  小笠原といえば日本一のダイビングスポットであり、私も当然潜りに潜った。そのときともすれば海中で彼らに出会うことになる。

 すると彼らは、目が合うや否や、ペンギンのように前足を羽ばたいて、信じられないスピードで飛び去ってしまう。ウミガメの本気は俊敏だ。あんなスピードで突進されたら人は即死だろう。彼らが自らの攻撃力を見過ごしているからよかったものの、反転し、攻勢に出られたら我々ダイバーは全滅することになるだろう。シロワニなんかより全然怖い。

 

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 別の機会に沖縄でウミガメを海中で観ことがあったが、沖縄の彼らは随分とゆったりとしていた。沖縄ではもうずいぶん前からウミガメ漁を止めているそうなので、沖縄ではウミガメは本能の中から、人を見たら逃げろ、という情報が抜け落ちてしまっているようだった。

 

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 私は沖縄のサンゴの上で薄ぼんやりとするウミガメよりも、小笠原の海の彼方へと全力で飛び去るアオウミガメの後ろ姿の方を鮮明に覚えている。

 小笠原では潜ってばかりだったが、今度は山を散策したり、ケータ諸島まで遠出して、磯マグロが頭上を周回する様をまじまじとみてみたいものである。ウミガメの妙味を求めて父島へ伺ったが、すっかり島の魅力に取りつかれてしまった。

 食道楽は人生を豊かにする。食を求めて行動に出ることは様々な経験を生み出し、人生に趣が増し、人間味を豊かにしてくれる。これからも様々な食を求め続ける所存である。